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『機動戦隊ブレイジャー』Mission.01 ( I )

 2010-11-05
   

 ―[1]―


 数多の星々をちりばめた夜の帳は、やがて柔らかな朝焼けの光に取って代わられ――。
 一日の始まりを示す太陽が、その姿を東から徐々に現さんとしていた。

 それと時を同じくして、首都の東西を結ぶ列車も、普段と変わらず順調な運行を続けている。
 まだラッシュアワーに差し掛かる前だからか、車中はさほど混み合っているという印象は受けない。
 そしてその中には、座席の端にややもたれかかるようにして座る真帆の姿もあった。
 乗車時より、手にした英単語帳に絶えず視線を走らせてはいるものの。
 うつらうつらと眠たげな様子の彼女の頭に、その内容が入り込んでいるかは疑わしいところだ。
 なにしろ、鼻先までずり落ちたメガネの事にさえ、未だ意識が向いていない位なのだから。


 そんな真帆の目に入ってきた新聞のとある見出しが、ほとんど眠りに落ち込んでいた意識をわずかに引っ張りあげる。
 昨夜の流星群、その中のひとつと思しき隕石が奥多摩のとある山中に落ちた事を、その記事は伝えていた。
 微睡みの中にありながらも、その視線は確かに記事の一字一字を追っている。

――あの赤いの……かな?

 真夜中に見た、あの赤い流星に思いを巡らせる暇も与えず、車内放送のアナウンスが真帆の耳に飛び込んでくる。

『吉祥寺……吉祥寺……車内に忘れ物ございませんよう……』

 そのアナウンスが、未だ眠りの中に留まっていた真帆の意識を瞬時に、そして完全に揺り起こす。

「ふぇぇっ!?」

 間の抜けたような一声と共に立ち上がるや、真帆は慌てて網棚に載せてあったカバンとコートをひっつかむ。
 発車寸前のところでなんとかホームに降り立つと、徐々に密度を増してきた人混みを縫い、出口に向かって歩みを速めた。
  

 ―――


 この日も、街は冬の突き刺すような寒さに包まれていた。
 それを物語るように街路樹は軒並み葉を落とし、反対に道行く人の殆どは、一様に厚手のコートに身を固めている。

 そんな寒空の下、真帆は一目散に学校までの道のりを駆けていた。
 駅から学校まではバスで十五分弱、徒歩に至ってはその倍以上と、そこそこの距離があるのにも拘わらずにだ。
 もっとも、真帆からすればもう一年近くも通い馴れた道のりだ。寒さが堪えるとはいえ、距離自体はさしたる問題ではなかった。
 さらに付け加えるとすれば、この寒空にも似た彼女の懐事情も、決して無関係な訳ではないだろうが。
 ともあれ、通学路ははやがて大通りから外れ、閑静な住宅地を横断する路地へと続いていく。
 ここまで来れば、学校までの距離は四、五分程でしかない。
 その事への安堵からか、真帆の表情にも幾分か余裕が戻っているようにも見えた。
 だからこそ彼女も気付かなかったのだろう。背後より、自分の身に危険が迫りつつある事に。


 やや艶かしげなラインで纏められた、特徴的なフォルムの車体。 それを彩る、目の覚めるような鮮やかなメタリックレッド。そして暴れ馬か、早すぎる春一番のように留まる事を知らないその疾走。
 そんな一台のスポーツカーの出現によって、学生達の声がこだます住宅街の穏やかな空気がにわかに一変した。
 蜘蛛の子を散らすように、次々と道路の脇へ避けていく学生達。その中から上がる小さな悲鳴は、轟き渡るエンジンの唸りに掻き消されていくのみだ。
 それでも、その内の一つが微かに真帆の耳に届き、意識を後方に向けさせるに至ったのは不幸中の幸いだった。
 いや、あるいは不運でしかなかったのかも知れない。なにしろ振り向いた瞬間にはもう、スポーツカーの姿は間近に迫っていたのだから。

――うそ………っ!?

 普段の彼女ならさっと脇に避ける事も出来ただろうが、走る事で頭が一杯だった今の彼女に、そこまでの余裕はないに等しかった。
 突然の事態に反応が間に合わず、ただ立ち尽くす事しか出来ずにいるのみだ。

――危ない!

 彼女が、そして道行く誰もがこの後起こるであろう惨事を予見したその時――。


   
 彼女自身、目の前で何が起きたかは把握出来ていない。その瞬間、思わず目を固くつぶっていたのだから。
 けれど耳から、肌から伝えられる様々な情報が、事態の大まかなところを真帆に知らせていた。

 いつまで経っても襲いかかる事ない、追突の衝撃。
 周囲から沸き起こる、ざわめきと驚きに満ちた声。
 そして極めつけが、一拍ほど置いて背後に轟いた、激しい落下音。
 それらを総合して導き出されたのは、今の状況があまりにも不可解極まりないものである、という答えだった。
 それが恐怖を煽り立てるのか、目を開けることさえ出来ずにいるままの真帆の背後から、

「大丈夫ですか?」

と、穏やかな声がかけられる。

「ふぇぇっ……!?」

 不意の呼び声に、動転した真帆は振り返りながらその場に尻餅をついてしまう。
 その視界にチラと入ってきた光景は、彼女を絶句させるに足るものだった。

「うそ……なんで…?」

 二、三メートル先に停められている、紅いスポーツカー。
 目立った傷や凹みもなく、さも何事もなかったような様子で、それは道路の真ん中に鎮座していた。
 直前まで、真帆の至近距離にまで迫っていたにも拘わらずにだ。
 立地的な見地から考えても、これを可能とするドライブ・テクニックはまずあり得ないと言ってもいいだろう。
 真帆を始め、このシーンに遭遇した誰もが、そう感じずにはいられなかった。  
 そんな、混乱の真っ只中にある真帆へと、そっと手が差しのべられる。
 それに気付いて顔を上げた先には、心配そうな視線を向ける一人の青年の姿があった。
 黒と赤を基調としたジャケットに、薄めのサングラスという出で立ちの彼こそ、あの暴れ馬の騎手なのだろう。
 その表情には真帆の身の安全に対する心配と、惨事に至らなかった事への安堵の念が窺えた。

「危ない目に遭わせてしまって、本当にすみません……怪我はありませんか?」
「……は、はい」

 穏やかで落ち着いたその口振りに、強張っていた真帆の表情もいくらか緩んだように見えた。
 ともあれ、差し出された手を取って立ち上がると、目の前の青年を注視する。


 顔立ち自体はやや童顔気味で、そこだけを見れば真帆と同じくらいの年齢にも見える。
 けれど落ち着きのある口調や立ち居振舞い、そして身なりは明らかに、年上の雰囲気を感じさせるに足るものだ。
 サングラス越しにも分かる眼差しはとても優しげで、それでいてどこか気品を漂わせている。
 彼の持つ人柄の良さ、それがこの眼差しから滲み出ているかのようだ。

「どうかされましたか?」
「あ、別になんでもないです……」

 投げかけられたその言葉に、ふと我に返った真帆はただただ苦笑せざるを得なかった。
 ひとつの事に没頭すると、他の事が全くといっていい程目に入らなくなってしまう。
 そんな彼女の悪癖がまた、無意識のうちに出てしまったようだ。

「ではこの辺で失礼します。繰り返すようですが……本当にすみませんでした」
「いえ、こちらこそ……」

 普段の真帆なら、轢かれそうになった事への文句の一つや二つも出そうなところだ。あわや、命を落としかねないところだったのだから。
 けれどこの時ばかりは、気の抜けたような返事を口にするしか出来なかったらしい。
 それは奇妙な事態に見舞われた事への混乱からか、あるいは青年の持つ雰囲気故か。
 そんな真帆に笑みを向けると、再び青年はスポーツカーへと乗り込み、この場から走り去っていく。

 心ここにあらずといった様子で、真帆はただそれを見送るしかなかった。
 

  
「よっ」

 背後からかけられた声に、立ち尽くしたままの真帆が振り返ると、そこには彼女も見知った顔があった。

「……トリー?」
「なぁに突っ立ってんだよ、怖くて動けなくなっちまったか?」

 トリーと呼ばれたその少年――鳥居慎一は、自転車に跨がったままからかうような口調で語り掛けてくる。
 その口振りから、どうやら先の一部始終を目にしていたようだ。

「なんなら、学校まで乗っけてってもいいけど」
「……ちょっと考え事してただけっ!」

 慎一の言葉にカチンと来たのか、一言吐き捨て再び学校へ向けて歩みを速める真帆。
 そんな彼女の様子に軽く肩を竦めながら、慎一もまた後を追うように自転車を走らせた。

 ―――

「あのさぁ千住」
「なに?」
「後で英語のノート貸してくんない?」
「……なんで?」

 正門前の信号に差し掛かった頃、唐突に切り出されたその頼みに真帆は眉をしかめる。
 その態度を見るに、こうした頼み事は二度三度の事ではないらしい。

「いや、家にノート忘れて来ちゃってさぁ……」
「またそれ……?」
「頼むからさっ、この通り…なっ?」
「なぁに言ってんのよ」
「いたっ」

 呆れた素振りを見せつつ、手馴れた様子で慎一の頭を小突く真帆。やはり、こうしたやりとりはそう珍しい事でもないらしい。

「……ったく。でも、これでよ~く分かった」
「分かったって、なにが?」
「さっきのアレが、夢でも錯覚でもないってさ」
「えっと……アレって、何のこと……?」
「お前なぁ……あそこで轢かれそうになったのは一体、どこのどいつなんだよ?」

 今度は、当事者である真帆のその様子に慎一の方が呆れる番だった。
 とは言うものの、真帆の困惑も無理のない事だ。彼女自身、実際にその光景を目の当たりにしてはいないのだから。
 すぐにその事に思い及んでか、やや置いて慎一の口から事の顛末が語られる。

「……だったら説明するけどさ、あの車……飛んだんだよ、お前にぶつかる手前で」
「え………?」

 思わぬ一言を耳にしてか、真帆の顔に浮かぶ困惑の色がより一層、濃くなったように見えた。
  
「………どういう……こと?」

――車が飛んだ。
 その言葉の意味するところが分からず、真帆もただ目を白黒させるしかない。

「どういう事もなにも、お前にぶつかる手前でボンっ!て真上に飛んでさ、そのまま飛び越えてったんだよ。
 それも四、五メートルくらいの高さまで上がって、オマケに空中でクルって一回転までしちゃってさ」
「い……一回転……?」
「そ、一回転」

 ややオーバーな身振り手振りを交えながらの慎一の語りに、より一層真帆の思考が混乱を来す。
 彼の言葉をそのままに受け取れば、衝突する寸前で高々と飛び上がり、しかも空中で一回転までしたという、馬跳びかカエルのような離れ業をやってのけたという事になるのだ。
 そんな常軌を逸した事態を素直に信じられるような思考など、当然彼女が持ち合わせているはずもない。

「なんか頭、痛くなってきたかも……」
「そんなヒマないだろ?これから小テストだってあるんだし」
「あ~もうっ、余計なこと言わないのっ!」

 不可解さを増した先の一件に加え、これから待ち受ける難問と、真帆の頭痛の種は尽きないようだ。

「……しのぶちゃんだったらこんな時、どんな反応するのかなぁ……」
「いくらあいつでも、アレ目の当たりにしたら驚くだろうな、絶対にさ」
「まだ風邪治ってないのかな?」
「だと思うぜ。まだ見てないけど、さっきアイツからメール来てたし」
「そっかぁ……」

 本来ならこの場にいるはずの親友に思いを巡らせつつ、ふぅとため息がひとつこぼれる。

 頭上に広がる冬空のように、彼女の心がカラリと晴れ渡るまでにはまだ、時間がかかりそうである。
 

 ―――


 通学路での一幕から、さらに数時間の後。
 首都圏と郊外とを結ぶ幹線道路の途上に、あの紅いスポーツカーの姿はあった。

 無論、その運転席にはあのサングラスの青年の姿も見える。
 だがその横顔は、今朝真帆の前に姿を現した時とは違い、険しさに溢れたものであった。
 サングラス越しに外の光景を見つめるその瞳もまた、どこか精彩を欠いているように見える。
 彼の目的がどこにあるのか定かでないが、少なくとも成果の芳しくなかった事は、その様子からも確かに窺えた。

『……行方不明から三ヶ月が経った今なおその行方は掴めておらず、現地では……』
「……やはり俺一人の力だけじゃ、限界がある……か」

 ニュースを伝えるカーラジオの声に耳を傾け、一人ごちる声さえも表情と比例して力なく響く。
 眉間に軽く皺を寄せつつ、チャンネルを変えようとしたその時だ。

『続いて、昨晩奥多摩に落下した隕石についてのニュースです……』

 スピーカーから聞こえてくるその一報に、にわかに彼の目が細められる。

『今朝から行われた捜索では、落下の事実を示す直径三メートルのクレーターが発見されたものの、隕石その物は発見に至っておらず……』
「………その隕石がこうして都内を走り回ってるなんて、誰も考えちゃいないだろうな」

 愉快そうに呟く青年の表情に、わずかであるが明るさが戻ったように見える。
 その内容から察するに、どうやら彼が奥多摩の隕石と何らかの関わりを持っているというそれだけは、確かな事実のようだ。

「それに隕石は一つとは限らないさ。地球人の目には……流石にそれらまでは捉えきれなかったようだが」

 言葉を継げる彼の目は、助手席に置かれた黒のアタッシェケースに向けられていた。
 芳しくはなかったとはいえ、その成果は決してゼロという訳ではなかったようだ。


  
 そんな車内に、けたたましい着信音がこだましたのは、正にその時だった。
 一瞬驚きの表情を浮かべるものの、すぐにジャケットの内側から携帯電話を取り出す。
 緩やかな曲線でまとめられたフォルムと、ジャケットと同様の黒と赤を基調としたカラーリングが特徴的だ。

『キャプテン、こちらマモリ、応答願います』
「こちらシュウ、どうぞ」

 携帯をとるや、聞こえてきたのは若い女性の声だ。
 青年――シュウをキャプテンと呼ぶ、さわやかな響きをもったその声が、流れるように状況を伝えてくる。

『ポイントIから半径五キロメートル以内に、対象の反応を確認。現在のところ怪しい動きは見られません』
「そちらの今の状況は?」
『二手に別れて対象の動向を監視中、間もなく合流する予定です』「引き続き監視を継続してくれ、俺もすぐに合流する」

 シュウとマモリが、何らかのチームの一員である事。
 そのリーダー、いやキャプテンがシュウである事。
 そして彼等が今、何者かを追跡ないし監視している事。
 会話から読み取れるこれらの内容が、彼等が特別な立場にある事を端的に示していた。

『キャプテンの方は、何か収穫はありましたか?』
「とりあえず目当てのものをひとつだけ、確保する事が出来たよ。詳しい事は合流してから伝える」
『ロジャー。では、また後ほど』

 マモリからの通信が終わると共に、ふぅと一息つくシュウ。
 その顔に、先ほどまで失われていた自信が戻りつつあった。

「どうやら奴等も……本格的に動き出してきたようだな……!」

 意味ありげな呟きと共に、力強く踏み込まれるアクセル。
 それに併せて速度を上げたスポーツカーは、彼方に見える市街地に向けてスパートをかけ始める。




――事態が大きく動き出したのは、それからほんの一、二時間後の事だった。

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